波音の回廊
 「……」


 七重は部屋の奥の小さな窓から空を見上げた。


 暗い空が少し見えるだけ。


 (今頃もうすでに、清明は始末を終えていることでしょう。清廉の)


 七飯の浮かべた笑みは、妖艶だった。


 それから向きを変え、枕元の洗面器で小さな布を水に浸した。


 小さな、顔に乗る程度の大きさの布。


 水を十分に浸してから、七重は布を手に取り、当主の枕元に迫った。


 (毒で即死しなかったのは、計算違いだったけど)


 ふっと笑って七重は、布を夫である当主である夫の顔に、近づけようとした時。


 「な、七重。居てくれたのか……」


 「!」


 急に当主が意識を取り戻したので、さすがの七重も飛び上がりそうなくらいに驚いた。
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