波音の回廊
 私の腕には、点滴の管が刺さっていた。


 「お母さん、私……」


 「詳しい話は、後から改めてにしましょう」


 母は穏やかな笑みを浮かべた。


 私は点滴の影響か、頭がぼんやりしていた。


 何も考えられない。


 考えたくない。


 ただ、眠りたかった。


 間もなく年老いたお医者さんが入ってきて、あれこれ診察を済ませた。


 念のため今晩もう一晩、私はこの病室で過ごすことになった。


 「海の水も飲んでないし、半日間気を失っていただけだから、一晩安静にすればすぐに元通りだろう」


 医者にそう言われた。


 半日……?


 昨夜、何があったっけ。


 窓からは、夏の終りの眩しい太陽が部屋へと差し込んで来た。


 太陽の光を見るのが、久しぶりな気がした。


 (そうだ、昨日は昼間でも夜のように薄暗く……)


 恐怖の大王が、真昼の空にも姿を見せていた。


 清廉……?
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