波音の回廊
 「あ、久遠(くどう)さんなら、ちょうど今向こうのロビーで夕刊読んでますよ」


 アポなしで来てしまったので、本人不在の可能性もあった。


 だけど幸いなことに、久遠という長期滞在中の東京の大学生は、すぐそこのロビーで夕刊を読んでいる最中だった。


 「久遠さんですね。私は瑠璃の母親です。先日は海で娘を助けていただいて……」


 まず母が大学生に声をかけた。


 話しかけられたことに気がついた大学生は、ゆっくりと顔を上げた。


 視界を遮っていた新聞がよけられ、顔つきが露わになる。


 母を見つめる、その大学生は……。


 「清廉……!?」


 それはまさしく清廉だった。


 私は大声でその名を呼び、駆け寄ってそのまま抱きついた。
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