波音の回廊
 「ちょっと瑠璃、どうしたの!?」


 仰天する母には目もくれず。


 私はきつく、彼を抱きしめた。


 「清廉、会いたかった……!」


 そのまま涙が溢れ出した。


 「あの時手を放してしまったことを、どんなに悔やんだことか……。こんなに早く巡り会えるなんて、本当によかった……」


 この大学生が、あまりに清廉に似ていたので。


 私は清廉もまた、あの津波を生き延びたのだと思い込んだ。


 贖罪を済ませて今、この地にたどり着くことができたのだと……。


 「で、セイレンって、誰?」


 声が聞こえた。


 声もまた、清廉と同じ声。


 ただ……。


 この人の声は、とても冷たかった。


 「俺は清春(きよはる)。久遠清春。この前あんたを助けはしたけど、だからってこんなに感激されて泣かれても、困るんだけど」


 清春は無表情のまま、私を離した。
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