波音の回廊
 「本当に申し訳ありません。瑠璃、あなたいったいどうしちゃったの。意識が戻ってからずっと、意味不明なことばかり言って」


 母は私が錯乱していると思いこんだようで、清春に詫びている。


 「清廉。私のこと記憶にないの? 水城島で私と交わした約束も……」


 「だから俺は、久遠清春だって」


 「……」


 「水城島って、この地域に伝わる謎の島のことか? 実在しない場所で、どうやってあんたは俺に会ったんだ? 俺、あんたとはあの夜、海で助けた時が初対面だけど?」


 「久遠さん……?」


 「俺は東京生まれの、東京育ち。この町に足を踏み入れたのも、五日前が始めてだ」


 ……清廉が生き延びて、ここに居るわけではない。


 ではこの清春が、清廉の生まれ変わり?
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