波音の回廊
 「そう。競走馬の特集だったんだけど、その馬がたまたまこの町の牧場の出身で、この辺りの映像が流れたんだ」


 北海道の太平洋側には、馬産地で有名な土地が多い。


 「海の映像に、俺は釘付けになった。俺が行くべき場所は、ここだと確信したんだ。それがちょうどこの近辺」


 清春が指差した海の沖は、おそらく水城島が存在した位置。


 「それからバイトして、旅費貯めて、夏休みを利用してついにこの町を訪れた。こんなことったら笑われると思って言えずにいたけど、海が俺を呼んでいるような気がしたんだよね」


 「海が?」


 「それであの夜も、満月に導かれるように浜辺を歩いていた。先客がいるな、と思ったらお前だった。いきなり夜の海へと向かって歩いていくから、びっくりしたんだ」


 「そうだったんだ……」
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