波音の回廊
 「この町で、お前と暮らしたい」


 明確な言葉を与えられたのは、一緒に時間を共有するようになって以来はじめてのこと。


 「私……、この年でもまだ学生だし」


 正式に付き合っているわけではないものの、すでにただの友達の関係を越えてしまっているため、一緒に暮らすことに対する抵抗感はないものの。


 お互いの環境が、いろいろと制約を生じさせている。


 「もちろん来年の春、大学院を卒業してからで」


 「仕事どうするの。不景気で札幌ですら就職先が見つからないのに、この町で私の雇用先なんて」


 「みつ子さんのところで、非常勤職員募集しているだろ。それに応募しろよ」


 「募集は知っているし、あの博物館で働けるのは嬉しいんだけど、残念ながら非常勤だと数年程度しか」


 最近は非常勤扱いだと、よくて数年くらいで任期が切れてしまうようだ。


 「今はまだお前も水城島のこといろいろ調べたいだろうし、いきなり専業主婦ってのもきついだろ。だから数年間は、博物館で働いてから」


 「は? 専業主婦?」


 「いずれはこの町でお前と、結婚したいって思ってる」
< 251 / 260 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop