波音の回廊
 「本気?」


 「いたって本気だけど」


 清春の表情は、ふざけているようには見えなかった。


 「いきなりそんな……。私たち付き合ってもいないのに、急展開すぎるんじゃない?」


 「俺はお前のことを、彼女だと思っているけれど?」


 「勝手に決めつけないで。私たち告白も約束も交わした覚えもなかったけど」


 「今さら? だって俺たちとっくに」


 清春は笑いながら、私の肩に触れる。


 言われる通りとうの昔に、友達としての一線を越えてしまい、それからもずっと一緒で。


 にもかかわらず付き合おうとも言ってくれず、好きだとか愛してるなどといった言葉もない清春の真意が掴めず、私はずっと不安だった。


 私って清春のいったい何なの?


 腕の中でいつもそんな疑問を抱えていた。


 それでも確かめることができずにいた。


 最悪の答えが返ってくるのが怖くて。


 清廉に続いて清春を失ってしまうようなことになれば、私はどうやって生きていけばいいか分からない。


 だから余計なことは口にせずに、ただ黙ってそばにいるだけだった。


 いずれ答えは、清春のほうから与えてくれると信じて。


 なのにいつまで経っても進展のない私たちの関係に、さすがに苛立ちを覚え始めていた今日この頃だった。
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