波音の回廊
 「実は怖かったんだ」


 「怖かった?」


 「俺がどんなにお前を必要としているか口にしたら、お前は重荷に感じて、逃げていってしまうような予感がして」


 「重荷? どうして私が」


 「分かっていたから。俺はただの身代わりだって」


 「あ……」


 「お前は決して、清廉を忘れることはできない」


 「……」


 清春は見抜いていた。


 私がまだ清廉を愛していることを。


 過去の世界で清廉とは果たせなかった夢を、清春を代役に迎えて続けていたことを。


 「でも俺は、それでもよかったんだ。清廉の身代わりとしてなら、俺はお前に必要とされるから。それ以上のことを望みさえしなければ、ずっとそばにいられるから」


 清春の告白を聞き終え、途端に滑稽に思えた。


 二人とも今この瞬間が壊れるのを恐れるあまり、先に進むのを拒んでいたんだと悟った。


 なぜ?


 失いたくなかったから。


 互いにが互いを必要としていたから。
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