波音の回廊
 「とはいえいずれ思い出の中の清廉よりも、そばにいる俺に気持ちが移り始めるんじゃないかって、甘い期待を抱いていたけど」


 「清春」


 「なのになかなかお前は、清廉を忘れてはくれない。そんなお前に苛立って、時には冷たく振る舞ったりもしたけどな」


 ……出会ってから、かなりの時間を共にしてきた私たち。


 いつしか友達のボーダーラインを越えた仲になっていた。


 近づく距離。


 その際いつも、瞳の奥に清廉の面影を描いていた。


 いや、描こうと努めていた。


 そうでもしないと、清廉の面影が消えていきそうで。


 忘れ去ってしまうのが怖くて……。


 清春から目を逸らしていた。


 逃げていたのは、私。


 それにあの日、清廉との別れの際。


 生まれ変わってまた巡り会おうと誓った時。


 巡り会って、今度こそ幸せになることを二人は祈っていたはず。


 願いは叶えられ、こうやって無事巡り会えたのに。


 前世への思い出に引きずられ、このままだと互いに不幸になってしまう。
< 254 / 260 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop