波音の回廊
 「清春」


 私は真っすぐに目を見つめながら伝えた。



 「私、これからもまたあなたの名前を間違えて呼んで、不愉快にさせるかもしれない。それに清廉を完全に忘れるのは、死ぬまで無理」


 正直に告げた。


 「でもあの日あの浜辺で、清春と巡り会えたのもまた運命だと思うし。この十年間、あなたがそばにいたからこそこうやって生きてこられた」


 「瑠璃、」


 「もう一度、初恋からやり直してもいい?」


 「俺は、大歓迎だよ」


 「じゃ……今から、私と付き合ってください」


 二人の関係を確かなものにしたくて、私は約束を求めた。


 「こちらこそ。今日から改めまして、よろしくお願いします」


 清春がかしこまった言い方をしてきたので、つい笑ってしまった。


 「こっちがやっと、真摯にお前に接することにしたのに。馬鹿にして笑うとは何事だ」


 もちろん笑いながら。


 清春は私に唇を重ねてきた。


 月明かりに照らされながら、誓いのようなキスをした。


 これまで何度も遊びではやっているのに、まるでファーストキスのような感覚に包まれた。


 「このまま結婚の約束をしてもいい?」


 「それはあまりに急展開すぎるので、私が大学院を卒業したら改めて、ってことで」


 ……。
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