波音の回廊
 唇を離し、手を繋ぎながら月を眺めた。


 海を中央に照らす満月。


 海が中央に割れるのを願ったら、あの夜のようにまた、水城島へと導く回廊が現れるのかもしれないと。


 つらい時、寂しい時。


 私は幾度となく、月に祈った。


 しかしあの後二度と、水城島へと続く回廊は現れなかった。


 無理して夜の海へと歩き出し、またしても自殺と間違われて、地域の人たちに迷惑をかけ、両親を心配させたことも。


 その騒ぎの後は私も自重し、無理やり夜の海へと歩み出すことはせず。


 ひたすら月へと祈るのみだった。


 どんなに祈っても、私は二度と水城島にはたどり着けないまま。


 いつしか十年の時が流れ、清廉の面影が少しずつ薄れていく。


 代わりに色鮮やかに私の記憶を埋め尽くしていくのは、清春の確かな存在。


 私はもう、一人で海の道を進んで行こうとは願わない。


 代わりに……島と共に海の底に沈んだ清廉の、永久の安らかな眠りを祈った。
< 256 / 260 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop