波音の回廊
 「みつ子さん」


 みつ子さんは、例のログハウス経営者夫妻の娘さんだ。


 「ここは町立の博物館なんだけど、展示物も少ないし、よっぽどのマニアじゃない人にはかなり退屈なんだよね」


 「いえ、そんなことは」


 私はとっさにお世辞を言ったけど、内心はまさに言われた通りだったのだ。


 「うちの町の歴史は、アイヌ時代のものは記録がほとんどなくて、遺跡や発掘物で当時を知るしかないんだよね」


 アイヌ時代は文字がなかったので、「和人(わじん)」と称される本州の人たちが記した記録で、当時を推測するしかない。


 「昔も本州とは、海を渡って交易していたんでしょうね」


 そう言って私は、博物館の窓から望める海を眺めた。


 青くて綺麗な海。


 この辺りは水温が低く、潮の流れが複雑なので、遊泳禁止区域であり。


 それゆえ海は、綺麗な色を保っているらしい。


 「瑠璃ちゃんは知らないと思うけど。遠い昔この水平線の向こうに島があって、とても栄えていたんだよ」
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