波音の回廊
 私に常に優しく振る舞い、何か言葉を発する度に笑顔で応える、この清廉が。


 ……心の奥底には、凶暴な本性をかくしているのだろうか。


 そしてそれはやがて姿を現し、神の怒りを買うほどの暴虐を極めるのだろうか。


 私には信じられなかった。


 目の前で微笑む清廉は、ただただ穏かで。


 笑顔を絶やさない青年だった。


 顔つきにはまだ、少年の面影を残している。


 (どうしてこの人が……?)


 私は理解できなかったが、心の中の不安を気取られないよう、気をつけて振る舞った。


 ……夜、私は客間へと案内され。


 静かにベッドに身を横たえた。


 はじめて過ごす、異世界での夜。


 曇っていて、月のない夜。


 なかなか寝付けなかった。


 姿を消してしまい、両親たちは心配しているだろうなという不安と。


 今、留まっているこの世界についての疑問。


 いつどのような形で清廉は、この世界を滅亡へと追いやるのか……?


 にわかには答えは出なかった。
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