波音の回廊
 「兄上、酔狂な言動はお慎みください。この娘は私の大事な客人です」


 「得体の知れない女を、やすやすと身の回りに置いておくべきではない」


 当主は息子である清廉に対し、苦言を呈した。


 私を疑っているらしい。


 「得体の知れない女……ですか」


 清廉はその言葉を反復して苦笑した。


 「では……。父上や七重(ななえ)どのが夜な夜な、私の部屋に送り込んでくる女たちは皆、得体が知れているとでも?」


 非常に皮肉っぽい口調で、清廉は父とその隣の化粧の濃い女に言い返した。


 「どいつもこいつも、七重どのと同じ系統の、厚化粧の女ばかりだから笑ってしまいます」


 「何だと!」


 当主は立ち上がった。


 「やれやれ、どうもまた父上のご機嫌を損ねてしまったようだ。邪魔者は退散いたします」


 そう言い放って。


 「待て、清廉!」


 父親の制止も聞かず、清廉は私を連れて宴の場から外に出た。
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