波音の回廊
 「清廉、待って」


 廊下を足早に立ち去る清廉を、私は必死で追いかけた。


 「ごめんなさい。私のことが原因で、不愉快な思いをさせてしまって」


 「お前が原因じゃない」


 ようやく清廉は立ち止まった。


 広い庭園の中にある、東屋に二人腰かけた。


 「でも……。せっかくの家族団らんの場で……」


 「家族団らん? あんな乱痴気騒ぎが?」


 清廉は語気を強めた。


 「父上は昔から派手好きだったが、最近は目に余る。京の文化にかぶれすぎなんだ。何もかもあの女が来てからだ」


 「あの女?」


 「父上の隣に、派手な女がいただろう? あいつだ」


 「隣に……」


 「父上はあの女、七重を娶ってから……」


 「ではあの人は、清廉の母上なの? 母上を呼び捨てなんて」


 「あの女は私の母親なんかじゃない。父上のただの再婚相手にすぎない」
< 48 / 260 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop