波音の回廊
 その船は、京から東北の有力大名に嫁いだ公家の姫君の、随行員たちが乗った船だった。


 七重は姫君の侍女の一人で、たまたま姫君とは別の船に乗っていて嵐に遭遇。


 水城の港に漂着後、嵐がおさまるのを待って修繕を済ませ、船は十三湊へと出航して行った。


 だが七重は……。


 そのわずかな隙に島の当主である清廉の父親に取り入り、新たに妻の座に入り込んだのだった。


 「私は、父上を理解できなかった」


 清廉は遠い目をした。


 結婚前に清明の母親と関係があったとはいえ。


 結婚後は、妻一筋だった。


 そんな父が、時が経つにつれて最愛の妻の面影を忘れ。


 若い女にうつつを抜かすようになった……。


 まだほんの少年だった清廉は、父のそんな心変わりが許せず。


 周囲に心を閉ざすようになった、と語る。
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