波音の回廊
 「お父上は、寂しかったのでは?」


 「寂しい?」


 清廉は遠い夜空を見上げるのをやめて、私を見つめた。


 「最愛の女性を失った寂しさを消し去るには、そうするしか方法がなかったのでは?」


 側にいる女を愛していると思い込んで、心の隙間を埋めるしか……。


 「たとえどんなに寂しかったのだとしても、私はあんな父上は見たくなかった」


 「……」


 私はまだ、大切な人を失った経験はない。


 いやそれ以前に、大切な人を失い、泣き続けて何も見えなくなるくらいに人を好きになった経験すらなかった。


 いつかそれほどまでに人を愛することができるのか、今の私には想像すらできなかった。
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