波音の回廊
 「働かないで、食費や住居費などはどうやって支払うの? 税金は?」


 「諸税の上納義務は、父が全て廃止してしまった」


 「えっ、ということは当主が島民全体の生活を支えているの?」


 「貿易で巨額な利益を得ているので、それがあれば税金など徴収しなくても、島民全体を養えるとの計算で……。父は税金を廃止してしまった」


 「税金がないなんて……」


 それは夢みたいな話だけど……。


 「働かざるもの食うべからず」の常識が否定された世界。


 「働かなくていいなら、島の人たちは空いた時間をどう活用するの?」


 「教養を身につけたり、自分を磨く時間にしろとのお達しだったのに、守られたのは最初だけ」


 最初は、義務や任務から解放されたことに感謝して、時間を有意義に使っていた人たちも。


 時の流れと共に、次第に感謝の気持ちを忘れ。


 今では昼間から、酒場や娯楽場ばかりが賑わう状態らしい。
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