波音の回廊
 「瑠璃という名前なの?」


 七重は私を値踏みするような眼差しで、じろじろと眺めた。


 長い黒髪と、綺麗に化粧された美貌。


 京の訛りの残った口調。


 姿も言葉もたおやかではあるけれど、発言も態度もとげとげしい女だった。


 綺麗な薔薇には棘がある、といった感じの。


 「側女にでもするつもり? 正妻にはできない身分でしょうからね」


 「そういう軽々しい扱いはしていません。私は父上とは違います」


 「清廉!」


 「もう話すことはありませんので、失礼させていただきます」


 清廉は強引に会話を中断して、七重から背を向けた。


 そして私の手を引き、立ち去ろうとした時。


 「せいぜい気をつけることね。その女が悪の大王の手先だったら、清廉あなたどうやって責任を取るつもりなの?」


 悪の大王……?
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