波音の回廊
 「ああ……悪の大王か。また瑠璃には不愉快な思いをさせてしまったな。本当に嫌な女だ」


 清廉は七重の無礼な言動を怒っている。


 「それはどうでもいいの。それより悪の大王って?」


 「悪の大王は、」


 清廉はふっと微笑んだ。


 「島の古老たちは、不吉なことの前触れだと恐れおののいているのだけど、私には綺麗なほうき星にしか見えない」


 「ほうき星?」


 「ほら、あそこを見てみろ」


 清廉は夜空を指差した。


 この頃すでに、日没を迎えて空は十分に暗くなっていた。


 私がこの島に来てから、連夜空は霧に覆われ、曇っていた。


 ようやくこの日、晴れた夜空が島を包んだ。


 天頂に近づきつつある上弦の月より一足お先に、天頂を目指している「悪の大王」とは。


 彗星……?
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