波音の回廊
 「どうしたんだ。震えているようだが?」


 清廉が私の異変に気が付いた。


 「お前もあのほうき星が怖いのか? やはり悪の大王は地上に災いを振りまくという言い伝えを信じているのか?」


 「違う。ハレー彗星は災いをまき散らさない」


 「はれーすいせい?」


 「あ、何でもない」


 ……現代の天文学が解明したハレー彗星の知識を披露すれば、清廉のみならずこの島の人たちは不安から解き放たれるだろう。


 でも……。


 私のうかつな発言が、大きな波紋を広げてしまうかもしれない。


 歴史を変えてしまうかもしれない。


 この島、そして清廉の運命までも。


 結局私は、何も言えなかった。
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