波音の回廊
 ……。


 「お帰りなさいませ、若様」


 清廉の館に戻ると、品のいい白髪の老人が迎えに出てきた。


 「じい、ただいま」


 その老人は、清廉が幼い頃から側に仕えている者らしい。


 「ただ今食事の準備中でございます。その間若様は、温泉に」


 「今日は潮風を一日中浴びて、髪もざらざらだ」


 清廉は自慢の黒髪を指で触れた。


 「このお方が、瑠璃どのですね」


 じいは私に視線を向けた。


 「大切な客人だ。私同様、よろしく頼む」


 清廉はじいに私を紹介した。


 この水城家の人たちは、よそ者である私が清廉の側にいることをあまりよく思わない。


 このじいもそうかと思っていて、身構えていたところ、


 「どうか若様のこと、よろしくお願いいたします」


 深々と礼をされた。
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