波音の回廊
 「瑠璃どの」


 清廉が温泉へと出て行った後。


 私も女湯があるので入ってくるように言われたため、準備をして向かおうとしていた時。


 じいに呼び止められた。


 「くれぐれも若様のこと、よろしくお願いいたします」


 再度懇願された。


 「ここ数日の若様の楽しそうな表情、本当に久しぶりでございます」


 「そんな……」


 「若様はご家族とも距離を置かれ、いつも寂しそうにしておいででした。立場ゆえ下々の者にもあまり心を開くことができず」


 「ですが清廉の側には、あなたもいるじゃないですか」


 「私は老い先短い身、いつまで若様の側にいられるか分かりません。だから瑠璃どののような方が、若様の側にずっと居てくれましたら私も安心です」
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