波音の回廊
 「ずっと……」


 私は湯船に浸かり、先ほどのじいの言葉を思い返していた。


 元の世界のことを思えば、焦燥感に駆られる。


 もうここに来てから、何日もの時が流れた。


 今頃家族は、回りの人たちは……どうしているのだろうか。


 これだけ長期化すれば、警察そして学校にも連絡しなければならないはず。


 いずれ夏休みは終わり、新学期になると話もますます広がるだろう。


 最初は、どうやって元の世界に戻ろうか、戻ることができるのか、考えたりもした。


 目が覚めると、これは全て夢で。


 いつもの朝を迎えられるのでは……と予測したのだけど。


 目覚めても目覚めても、私はここの世界から抜け出せなかった。


 そして時間が経つに連れて、私はこのままここから離れてしまうことを、逆に怖く感じるようになっていた。


 つまり、清廉と離れ離れになることを。
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