波音の回廊
 「ハレー彗星だ……」


 月明かりが眩しい夜でも、ハレー彗星は夜空にはっきりと姿を見せている。


 不吉なくらいに鮮やかに。


 カメラさえあれば、写真に撮りたいくらいだ。


 私はしばし、彗星に見入っていた。


 気がつくと庭園のかなり奥にまで足を踏み入れていた。


 すると……。


 ♪♪♪~


 風に乗って、どこかから弦楽器の音色のようなものが聞こえてきた。


 テレビの邦楽番組などで耳にする、ノスタルジックな音色。


 庭園を横切り、音色を辿った。


 清廉が、館の軒先のような部分で柱に背をもたれて座り、目を閉じたままで楽器を奏でている。


 詳しくは分からないのだけど、琵琶のような楽器だった。


 波音を呼び込むような、どこか物悲しい音色。
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