波音の回廊
 「……」


 私は物陰に身を潜め、しばしその音色に聞き入った。


 全身ざわめくような、切ない音色。


 眩しすぎて不吉な月と、ほうき星の下。


 いつまでも浸っていたかった。


 その時。


 「そこで何をしている」


 清廉がいきなり声を出した。


 目をつぶっているのに、私の存在に気が付いた?


 恐る恐る、いいわけの言葉を口にしようとしたのだけど。


 「あ、あの……。若様がお休みの前に、枕元に水入れを置いておこうと思いまして……」


 私ではなかった。


 清廉からかなり距離を置いて、侍女らしき人物が廊下に控えていた。


 まだ少女、私よりも若いくらいの娘だった。
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