波音の回廊
 「……」


 清廉がゆっくりと、娘のほうに振り返る。


 なるほど、こういうことだったのか。


 清廉が幾度か、お父上や七重どのに言い放っていた。


 「得体の知れない女を寝室に遣わす」云々。


 清廉は、受け入れるのだろうか。


 次期当主という立場ゆえ。


 頭では仕方ないことだと理解していても、胸が苦しくてたまらなかった。


 清廉が今夜、あの娘を抱くのかと考えるだけで……。


 「……誰の命令だ?」


 清廉は娘に冷たく言い放った。


 ここから見ても分かるくらいに、怒りに満ちた表情で。


 「父上か? それとも……七重か?」


 「……」


 娘は口を閉ざした。


 「それともお前は、自発的にここまで忍んで来たと言うのか? 私に抱かれるために」
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