波音の回廊
 「違います!」


 「何が違うのだ。経緯はどうあれ、お前がここに来た理由は一つだろう。どうせ、寂しい次期当主様をお慰めしろと、命じられたのだろう?」


 「いいえ若様! わたくしは、」


 娘は清廉の袖を掴もうとした。


 「触るな! 汚らわしい!」


 清廉は無慈悲に、娘の手を払いのけた。


 「どいつもこいつも……。そんなに次期当主に寵愛されたいのか。そんなに富や権力がほしいのか」


 「違います……。私は心から、若様のことをお慕い申しておりました。ここに仕えるようになった時から……。今夜ここへ来るようにと命令されて、内心私は……」


 清廉の厳しい追求に耐え切れず、娘は泣き出してしまった。


 「……悪かった」


 清廉はようやく、冷静になったようだ。


 「お前が悪いのではない。上からの命令は絶対で、断りきれず嫌々ここに来たのだろう?」


 清廉は娘の頭を撫でた。
< 78 / 260 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop