波音の回廊
 「なのに私は、自分の感情を抑えきれず、お前にひどいことを言ってしまった」


 「いえ、若様。わたくしは本当に、心から……」


 「ありがとう」


 清廉は娘に微笑んだ。


 「私は半端な気持ちで、お前をもてあそんだりはできない」


 「若様……」


 「さあ。戻りなさい。お前が悪いわけではないのだから、恥じたりすることはない」


 「……」


 娘は無言で頭を下げた後、涙を拭きながら廊下の奥の暗闇へと消えていった。


 私は安堵して、思わず足元の小枝を踏んでしまった。


 パキッ、乾いた音が鳴り響いた。


 「あ……」


 「瑠璃」


 盗み見していたことが、ばれてしまったようだ。


 「まずいところを見られていたようだな」


 清廉は苦笑する。


 「いいえ、いいところだったと言ったほうが正確かも」


 私はつい微笑み返してしまう。
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