波音の回廊
 「カビの生えたような古い本を読むのも、花嫁修業の一貫か?」


 気が付けば私のすぐ横の壁に、もたれかかって腕を組んでいた。


 「あなたには関係ありません」


 私は背を向けて、通り過ぎようとした。


 「そう邪険にするなよ」


 いきなり腕を掴まれた。


 「何をするのです」


 振りほどこうとしても、大柄な清明は力も強い。


 「……水城家次期当主の妻という玉の輿目当てなら、俺にも取り入っておいたほうがいいぜ」


 「意味が分からないんですけど」


 「はっきり言っておくが、もし清廉が死んだら、次の当主は俺だ」


 「何ですって?」


 「清廉は正妻の生まれってだけで、兄である俺を押しのけて、次期当主の座が約束された。だがあいつが生まれなかったら、俺が父の後継ぎだったんだ」


 「!」


 そして清明は、冗談とは思えない眼差しで私にこう告げた。


 「あいつさえこの世に存在しなければ俺は……!」
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