波音の回廊
 「おいおい、冗談だってば。単なる挨拶だよ挨拶」


 凄みのある表情に押され、清明は退いた。


 「これくらいのことで、ムキになるなよ」


 それだけ言い残して、清明は去っていき……。


 「行こう、瑠璃」


 館へと戻り始めた。


 「清廉……」


 私も追いかけた。


 「今日という今日は、頭に来た」


 清廉は吐き捨てる。


 「兄上とはいえ、やっていいことと悪いことがある。瑠璃に悪ふざけをするなんて言語道断だ。やがて天罰に屈すればいいのに」


 そう言い放つ清廉の瞳には、殺意のようなものが揺らめいていて……怖い。


 「やめて!」


 私は清廉の瞳から、殺意の気配を消し去りたかった。
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