波音の回廊
 兄を殺し、父を、母を……。


 あの言い伝え。


 現実にさせてはいけない。


 危険な芽は、早急に摘み取らねば。


 「……私。一人っ子だったの」


 自分の話に切り替えた。


 「兄弟姉妹、一人もいないのか。珍しいな」


 「私の生まれた世界では、そんなに珍しくなかったの。でも周りの子たちが兄弟姉妹で楽しそうにしているのを見ると、羨ましかったな」


 「私だって兄上とは……!」


 清廉が語り始めた。


 「幼い頃は、母上に連れられて、よく兄上と遊んでもらった。兄上は側室の子にもかかわらず、正室だった私の母と側室とは親子同士いつも仲良くしていたんだ。一つ年上の兄上は、色んな遊びや勉強を教えてくれる、とても頼りになる存在だった」


 「……」


 「母上が亡くなった時も、兄上がいてくれたから心強かった。いつも頼りになる存在だったのに、気が付けば徐々に溝ができて……」
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