Sweet Lover
『あんな小娘が婚約者だなんて、本気で言ってるの?』

『本気も何も、真実だ』

そっと部屋を出てリビングの様子を伺うと、嫌でもそんな会話が飛び込んでくる。

『私たち、あんなに熱い夜を過ごしたじゃない――』

聴きたくないよ、それ以上。
そう思った時、


ピンポーン

タイミングよく呼び鈴が鳴った。
響哉さんが、渋々それに対応している隙に、私は家から飛び出した。

マンションを出ると、入り口で、男性が一人耳を押さえているのが見えた。

彼がインターフォンを押した人物なのかもしれない。
そして、響哉さんに怒鳴られたのね、きっと。

……どうでもいいけど。

私は目の前に見える公園に行く。とにかく、一人になりたかった。
あんな美人な有名女優さんと張り合ったって、私に何ができるとも思えない。

それに、――二人の関係を匂わせるあんな言葉を耳にするのも耐え切れなかった。



柔らかな風がベンチに座る私の頬を撫でていく。

「あの。
 ……二階堂 朝香さん……じゃないですよね?」

そんな私におずおずと声を掛けてきたのは、さっきうちのマンションの入り口で、耳を押さえていた青年だった。
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