Sweet Lover
チノパンに縦縞のシャツ。眼鏡に大きな黒カバン。
年の頃は20代半ば……くらいかな。
身長170センチくらいの細身の男は、きょとんとする私を見て相好を崩した。

笑うと少し、印象が変わる。

怖い、から、可愛い、くらいには。

ああ、八重歯が零れたせいなんだ、と気づくまでには少し時間がかかって、それまでに彼は図々しくも私の隣に座っていた。

「二階堂 朝香は亡くなりました。
 ……ずっと昔に」

予想もしていなかったのだろう。男は表情を失った。

「どうして、二階堂をご存知なんですか?」

ああ、と。
少しずつ過去に想いを巡らせて金縛りがとけたのか、男は懐かしそうに眼を細めた。

「古い映画で見かけたんです。自主制作映画だと思うんですけど。……僕、スドーさんにすごく憧れていて。彼の過去の作品を探しまくっていて。その中で、見かけたことがあるんです。
 あまりにも、スドーさんとお似合いだなと思ったので。その。名前まで覚えちゃいました」

照れたように、彼が笑う。

……古い、映画?
私の中で、何かが点滅する。


「では、貴方は二階堂さんとスドーさんとの隠し子なんですか?」

しかし、その一言で頭の中がすうっと冷たくなっていった。


――実は、私は響哉さんとママとの子供なの?
  だから、私のことを引き取ろうとするの?


いや、でも――、だったらそう名乗るよね?
わざわざ実の娘にキスしたり抱きしめたり、婚約者だと公言したりなんていう面倒なことしないよね――?
< 250 / 746 >

この作品をシェア

pagetop