Sweet Lover
チノパンに縦縞のシャツ。眼鏡に大きな黒カバン。
年の頃は20代半ば……くらいかな。
身長170センチくらいの細身の男は、きょとんとする私を見て相好を崩した。
笑うと少し、印象が変わる。
怖い、から、可愛い、くらいには。
ああ、八重歯が零れたせいなんだ、と気づくまでには少し時間がかかって、それまでに彼は図々しくも私の隣に座っていた。
「二階堂 朝香は亡くなりました。
……ずっと昔に」
予想もしていなかったのだろう。男は表情を失った。
「どうして、二階堂をご存知なんですか?」
ああ、と。
少しずつ過去に想いを巡らせて金縛りがとけたのか、男は懐かしそうに眼を細めた。
「古い映画で見かけたんです。自主制作映画だと思うんですけど。……僕、スドーさんにすごく憧れていて。彼の過去の作品を探しまくっていて。その中で、見かけたことがあるんです。
あまりにも、スドーさんとお似合いだなと思ったので。その。名前まで覚えちゃいました」
照れたように、彼が笑う。
……古い、映画?
私の中で、何かが点滅する。
「では、貴方は二階堂さんとスドーさんとの隠し子なんですか?」
しかし、その一言で頭の中がすうっと冷たくなっていった。
――実は、私は響哉さんとママとの子供なの?
だから、私のことを引き取ろうとするの?
いや、でも――、だったらそう名乗るよね?
わざわざ実の娘にキスしたり抱きしめたり、婚約者だと公言したりなんていう面倒なことしないよね――?
年の頃は20代半ば……くらいかな。
身長170センチくらいの細身の男は、きょとんとする私を見て相好を崩した。
笑うと少し、印象が変わる。
怖い、から、可愛い、くらいには。
ああ、八重歯が零れたせいなんだ、と気づくまでには少し時間がかかって、それまでに彼は図々しくも私の隣に座っていた。
「二階堂 朝香は亡くなりました。
……ずっと昔に」
予想もしていなかったのだろう。男は表情を失った。
「どうして、二階堂をご存知なんですか?」
ああ、と。
少しずつ過去に想いを巡らせて金縛りがとけたのか、男は懐かしそうに眼を細めた。
「古い映画で見かけたんです。自主制作映画だと思うんですけど。……僕、スドーさんにすごく憧れていて。彼の過去の作品を探しまくっていて。その中で、見かけたことがあるんです。
あまりにも、スドーさんとお似合いだなと思ったので。その。名前まで覚えちゃいました」
照れたように、彼が笑う。
……古い、映画?
私の中で、何かが点滅する。
「では、貴方は二階堂さんとスドーさんとの隠し子なんですか?」
しかし、その一言で頭の中がすうっと冷たくなっていった。
――実は、私は響哉さんとママとの子供なの?
だから、私のことを引き取ろうとするの?
いや、でも――、だったらそう名乗るよね?
わざわざ実の娘にキスしたり抱きしめたり、婚約者だと公言したりなんていう面倒なことしないよね――?