Sweet Lover
「行くぞ」

佐伯先生は私の動揺など気にした風もないように手を掴んで歩き出す。

「待ってくださいよ。
 まだ会話の途中で――」

佐伯先生は足を止め、手入れの行き届いた刃物を思わせる鋭い目つきで青年を睨む。

「そう。
 悪いが、俺は自分のオンナが他の男と話と視線を合わせるのさえ許せないタチでね。
 諦めて、とっとと帰りな」

言うと、有無を言わせずに私を引っ張っていき、近くに停めていたスカイラインに強引に引きずり込まれた。

「……喋っていいぞ」

エンジンをかけて、車を発進させた佐伯先生が、呆然としている私にそう言った。

「……事態が飲み込めません」

眼鏡の奥の瞳を向けて、僅かに唇を緩ませた。

「奇遇だな。
 俺もだよ。
 仕事をしていたら、響哉から電話があって、『仕事なんてやってる暇があったら、今すぐ俺の恋人を捕まえてこい』って命令されたんだぜ?」

呆れた口調で言う。
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