Sweet Lover
「あの、うちは目の前なんですけど」

マンションの方向ではない方に車を走らせる先生にびっくりしてそう言うと、呆れた声が返ってきた。

「知ってるに決まってんだろ。
 でも、マスコミに見張られているって分かったんだから仕方が無いだろう?

 有名女優も押しかけてきたようだしな。
 なに、響哉が使える部屋なんていくらでもあるんだから、ケチることはない」

「……どういう、意味なんですか?」

「それは本人に聞いてくれ。
 そうそう、さっきのマスコミ騒動で、早々にあの人騒がせなハリウッド女優親子も帰って行ったらしいから、心配することはない」

「でも……っ。
 私なんかより、カレンさんの方がずっと――響哉さんにあってる気がする。

 ペギーちゃんのことも、大切にしているし……」

「そう。じゃ、啓二くんのところに送ろうか?」

つい漏らしてしまったぼやきに、帰ってきたのは凍りそうなくらい冷たい声だった。

「そういうわけじゃ……っ」

「――あのさ。
 俺は基本的に響哉の味方だから、こういう風に言いたくないけど――。

 添い遂げる覚悟がないなら、響哉の傍から消えてくれ」


先生の言葉は、ずしりと重く胸に響いた。
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