Sweet Lover
車の中の重たい沈黙を、私は破ることが出来なかった。

確かに、私が自信がなくて勝手にマンションを飛び出して――。そのせいで、佐伯先生は迷惑をこうむっているんだから、怒っているのはわかる。

でも、突然ハリウッド女優がやってきて、響哉さんとの恋仲を力説し、その子供はあんなに響哉さんに懐いていて――、それを目の当たりにして平然としてそこにいられるほど、私は強くない。

こんなことなら、幼い頃の婚約話なんて、真に受けなきゃ良かった。


このまま、義両親の住む家に連れて行かれるのかな――、なんて引き裂かれるような胸の痛みを感じながら考えていたら、前のと似た感じの高級マンションの地下駐車場へと入って行った。

「あの――本当にご迷惑かけてすみませんでした」

「いいよ。
 俺に迷惑かけたのは、響哉であって真朝ちゃんじゃないし。

 大人げないこといって悪かった」

先生は照れくさいのか、ぶっきらぼうに言って先に車を降りる。私は慌ててその背を追った。
< 254 / 746 >

この作品をシェア

pagetop