Sweet Lover
いつものように、教室で梨音と朝の挨拶を交わす。

「そういえば、うちの理事長って誰だったっけ。
 梨音、覚えてる?」

なにげない、世間話のつもりだったのに、梨音の顔がみるみる強張っていくので驚いた。


「……藪から棒に、どうしたのよ?」

一呼吸置いた後、何食わぬ笑顔を作ってはいるけれど。
彼女の隠しきれない動揺が手に取るようにわかる。

「理事長と響哉さんとに、何か関係があるってこと?」

「そ、れはさ。
 須藤響哉に直接聞いたほうが良いんじゃないかな?」

梨音の瞳は明らかに泳いでいる。

「じゃあ、ひとつだけ教えて?」

「……可能なことなら、ね」

「私はその答えを知らない方がいいと思う?」

うーん、と、梨音は腕を組む。

「私としては知らないままで居てほしいけど。
 それを許さない状況っていうのがあるからなぁ……」

「どうせ知ったほうがいいなら、今、教えてくれない?」

梨音は一瞬唇を噛む。

「あ、でもそうしたいんだけど。
 ほら、授業が始まるし」

フェイドアウトするように自分の席へと戻っていく。
どういうことかしら。


理事長。
うちの理事長って、そういえば滅多に姿を見せない気がする……。

名前、なんて言ったかしら。
入学式で挨拶あったっけ――?

いや、理事長代理って人があいさつした、よね? 確か。


授業が始まっても、私はちっとも集中できなかった。
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