Sweet Lover
響哉さんは、一瞬目を丸くして、それからぎゅうと私をその胸に抱き寄せた。

「二人の良い所だけ全部集めたような、素敵な子だよ、マーサは」

「まだ、全部思い出せた自信がなくて……。
 ねぇ、本当にママとキスしたこと、ない?」

「ないよ。
 でも、この映画でキスシーンは演じたけれど。
 真一が怖くて、唇は重ねられなかったなー」

茶目っ気たっぷりのその言い方は、どこまでが本心なのかよく分からない。

「……残念?」

響哉さんの手が、私の頭をそっと撫でる。

「今となっては、そっちの方が良かったって思ってる」

響哉さんは言うと、自嘲的な笑いを漏らした。

「身勝手な男でゴメンね」
< 351 / 746 >

この作品をシェア

pagetop