Sweet Lover
「須藤さん、救急車手配しましょうか?」

響哉さんがゆっくり、私の方に歩み寄る。
目が霞んで、良く見えない。

彼の手が首筋に触れる。
手早く症状をチェックしていた。

その手際の良さはまるで、医者のよう。

「いや、結構。
 思ったよりずっと、軽症だ」

言いながら、自分の服をベッドに刺さっていたナイフで切り裂いて、私の首に布を巻いていく。

「とりあえず、ソイツを連行してくれ。
 現場はこのまま維持しておく。鍵は執事からもらうといい。
 俺は彼女を連れてこのまま失礼する」

手錠と足枷を外して、ふわりと、響哉さんが私を抱き上げた。
嗅ぎ慣れた香水の香りが、鼻をくすぐる。


「もう大丈夫だ、マーサ。
 俺が傍に居る」

極上のハチミツに似た甘い声が、耳に優しく響いた。
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