Sweet Lover
「もう、頭がオーバーヒートです」

私は、クッションの効いた座席に思い切り体重を掛けたままそう言った。

先生は心配そうに私を覗き込む。

――ち、近いんですけど。
  とても。

でも、私はこれ以上のけぞりようがない。

「それは、出血と緊張のせいだよ――。
 もう少し響哉で居てやれば良かったね。そうすれば、真朝ちゃんも少しは泣けたのに」

耳元で囁いて、ポケットから錠剤を取り出した。

「これを飲んで、しばらくお休み。
 ……口移しで、飲ませて欲しい?」

眼鏡の奥の瞳が妖しく煌く。


刹那、くらりと眩暈がしたのは多分、出血のせいでも緊張のせいでもないと思う。
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