Sweet Lover
【佐伯 頼太side】

啓二くんの話を持ち出した途端、気の毒なほどにしょげてしまった真朝ちゃんは、なんとか気力を振り絞って気丈に電話を掛けた後、俺の与えた軽い精神安定剤を飲んで眠ってしまった。

いっそこのまま、響哉の所に走ってやろうか――。

そんな気の迷いが生じるほど、彼女は一途で、いじらしい。

だいたい。
自分が殺されかけた直後に、どうしてあんな安全圏に居る男のことを心配するのさ。


両親の葬儀で茫然自失だった彼女の姿を思い出す。


こんなことなら、と、思う。


響哉との約束なんて守らずに、真朝ちゃんの前でも「完璧な須藤響哉」を演じれば良かった。

そうすれば、真朝ちゃんは俺のことを響哉だと信じ込んで、腕の中で泣いてくれたのに。

そうすれば、少なくとも今もうちに抱えているストレスは半減できたはずなのに。
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