Sweet Lover
――駄目だ。

珍しく感傷的な気分にさせられた俺は、苦笑を浮かべて携帯電話を手に取った。

電話の相手は、響哉ではない。アイツの電話番号なんてほとんど日替わりで、付き合いきれるわけがない。

彼の有能な秘書、葛城春花。

「はい、葛城です」

「忙しいところ悪い。
 響哉、居る?」

「――ええ、かなり無理して仕事をされてますわ」

葛城は声を潜めてそう言った。

「なんとなく分かる。
 こっちにもそういうのが一人いるからね。
 忙しいのは分かるけど、なんとしても今夜、アイツの時間を空けてくれない?」

「分かりました」

「屋敷に帰りたくないと言うなら、彼女を連れて何処にでも出向く。
 場所を指定しろって伝えておいて」
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