Sweet Lover
『でも、ママと寝るとき、マーサ向こうに居るの。
 ねぇ、そっちにいっちゃダメ?』

私はキョー兄ちゃんの左側を指差した。

『マーサちゃんにはこっちに居て欲しいんだけどな』

『どうして?』

首を傾げる私に、キョー兄ちゃんは一瞬言い淀んだ後、声を潜めて耳打ちしてくれた。

『本当は、左手が利き手なんだ。
 だから、いざという時のために空けているんだよ』

――もちろん、幼い私にその意味が分かるわけもない。

『いざ?』

首を傾げる私の頬を、キョー兄ちゃんはそっと撫でた。

『そう。
 大事なマーサちゃんを守るために、いつも右側に居てもらってるの』
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