Sweet Lover
32.駆け引き
メモのとおり、春花さんから預かったチケットとお弁当交換して、響哉さんの楽屋に向かう。
ノックすると、さっきステージで通訳をしていたスーツ姿でキリっと決めた女性がドアを開けた派手なメイクに満面の笑顔を浮かべている。
「あら。お弁当? 私が届けるわ」
差し出された真っ赤なマニキュアで飾られた爪に、目が釘付けになる。
私なんてノーメークだし、服だって、他愛無い普段着だし……。
改めて、場違いな姿で来てしまったなとため息をつきそうになる。
「あの……」
けれども、中に入れてもらえないと困る。
『忘れ物』
不意に聞こえた耳慣れた英語に、私は顔をあげた。
響哉さんは彼女のものと思われる打ち合わせ用の本を強引に渡し、
『ランチボックス、奥に置いてくれない?』
と、それと全く同じ口調で私に言う。
でも、私にだけ向けられた黒曜石の瞳は、隠し切れない甘い光を帯びている。
「はい」
私はすり抜けるように楽屋の奥へと足を運ぶ。
シンプルでほとんどモノの無い部屋。
『どうして来たの?』
背中から聞こえる優しい声。
『それは――』
答える前に、背中から抱きしめられた。慣れた行為のはずなのに、心臓が飛び出しそうになる。
大きな手のひらが私の唇を覆うのは、盗聴を危惧してのことかしら。
ノックすると、さっきステージで通訳をしていたスーツ姿でキリっと決めた女性がドアを開けた派手なメイクに満面の笑顔を浮かべている。
「あら。お弁当? 私が届けるわ」
差し出された真っ赤なマニキュアで飾られた爪に、目が釘付けになる。
私なんてノーメークだし、服だって、他愛無い普段着だし……。
改めて、場違いな姿で来てしまったなとため息をつきそうになる。
「あの……」
けれども、中に入れてもらえないと困る。
『忘れ物』
不意に聞こえた耳慣れた英語に、私は顔をあげた。
響哉さんは彼女のものと思われる打ち合わせ用の本を強引に渡し、
『ランチボックス、奥に置いてくれない?』
と、それと全く同じ口調で私に言う。
でも、私にだけ向けられた黒曜石の瞳は、隠し切れない甘い光を帯びている。
「はい」
私はすり抜けるように楽屋の奥へと足を運ぶ。
シンプルでほとんどモノの無い部屋。
『どうして来たの?』
背中から聞こえる優しい声。
『それは――』
答える前に、背中から抱きしめられた。慣れた行為のはずなのに、心臓が飛び出しそうになる。
大きな手のひらが私の唇を覆うのは、盗聴を危惧してのことかしら。