Sweet Lover
それって、夏休み前にもう、アメリカで暮らすってこと――?

言葉がでない私を見て、ふわりと口許を緩ませると、

「返事は後でいいから」

と、柔らかく言って、立ち上がると電話で別の誰かと、打ち合わせ始めた。

食事を終えた私は、お弁当箱を片付ける。

「では、万事よろしく」

電話を切った響哉さんは、ぎゅうっと私を腕の中に抱きしめる。

「次は、数分のトークだけだから、ここで待ってて。
 マーサが待っててくれると思ったら、それだけで頑張れるから」

珈琲カップの底に溶けきれなかった角砂糖がざらりと残るほどの甘さで、囁くと響哉さんは歯磨きを始めた。

そのうちノック音がして、春花さんとメイクさんが入ってきた。
メイクを直した響哉さんは、慌しくステージに戻っていく。

「社長も少しは元気になったんじゃない? これでまた頑張ってくれるわね。ありがとう、真朝ちゃんのお陰よ」

独り残った春花さんが、どことなく得意げな笑みを浮かべてそう言った。


「利用しましたね?」

「あら、人聞きが悪い。
 真朝ちゃんも楽しかったでしょう? 
 社長も、真朝ちゃんも、私も幸せ。これぞ、Win-Winの関係だわ」

別に私が悪いわけじゃないわよ、なんて微笑む春花さんは私なんかにはとてもかなわないオトナに見えた。
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