Sweet Lover
コンコン

ノック音に、二人で顔を見合わせた。
魚眼レンズで外を覗くと、佐伯先生が居た。

「佐伯――さんです」

ここで『先生』と言っていいのかどうか判然としない私は、そう、春花さんに告げた。

春花さんは躊躇いもせずにドアをあけた。

「お疲れ様です、先輩」

ああ、そうか。
響哉さんの後輩ってことは、必然的に佐伯先生の後輩にもなるわけだ――。


にこやかな笑顔は、従順な後輩を思わせる態度。
でも、先生はふぅとため息をついて、隣に居る監督を見上げた後で、春花さんに向かって言う。

「――お前、この俺をハメたろ?」

「嫌ですわ。
 先輩をハメるだなんて、無力な私に出来るわけないじゃないですか」

春花さんは嫣然とした笑みを浮かべると、

「あら、まあ。
 もう、こんな時間。
 真朝ちゃん、先輩、それから、そちらのアナタ。
 ごゆっくり」

と、何か言いたげな監督の傍を通り抜け、楽屋から出て行った。
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