Sweet Lover
「人が忙しい時に、楽しそうで羨ましい」

休憩時間になったのか。
扉を開けて響哉さんが入ってきた。笑っている先生に冷たい目をむける。

そうして、私の方に歩いて来ようとしたが、当たり前のように監督に妨害されてしまった。

「あ、あのね。
 私、一緒に行くよ、アメリカ」

話がこじれないうちに、響哉さんに伝える。
驚きと、それに続いて満面の笑みが彼の顔に浮かんだ。

「ありがとう、マーサ。
 本当、ゆっくり話したいんだけど――」

響哉さんは時計を見てため息をつき、監督と一緒に部屋から出て行ってしまった。


「次回作を、アカデミー賞にノミネートさせる気で頑張るらしいよ。一映画ファンとして、楽しみにしておこう。
 それにしても、あの世界的に有名な監督の命運までも握っているなんて。真朝ちゃんはすごいね」

先生は扉が閉まってから、ふうと息をついた。

「そんなこと――」

言われても困る。意図してやったことじゃない。
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