Sweet Lover
「真朝ちゃん?」

頬に手が伸びて、我に返る。
テーブルの向こうでは、響哉さんが心配そうに私を見ていた。

私の頬に触れた手も、そっと引っ込める。

「冷めるよ?」

気づけば、目の前に置かれた仔牛のフィレからはおいしそうな香りが漂っていた。

「ごめんなさいっ……私、ぼーっとしちゃって」

いつ、置かれたのかさえ気づかなかった。

「無理矢理キスする話は取り下げるから、ね?
マーサがそんなに不安がると思わなくて」

心配を詰め込んだ声に心をそっと撫でられた気がして視線を上げれば、いつも自信に満ちているその黒い瞳が、今は不安で揺れている気さえした。

「ごめんね」

ストレートに謝られて、どうしたらいいのか分からない。
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